特に移動能力の獲得は,乳児期の身体能力の成長・発達において重要な課題とされています。ほふく,伝い歩き,歩行・・と,こどもたちは自分自身の身体を動かすことで,身体能力や空間把握能力([59.拡がりのある空間の体験][60.立体的な空間の体験]を参照)を身につけ,探索行動を発現させていきます。ベッド上の生活だけでは難しい,このようなちょっとした運動が自発的な意欲を増し,他者との関わり要求の表現や距離感の選択など社会性の成長・発達の端緒ともなります.

 また適度に身体を動かすことで良質な睡眠をとりやすくなり,生活リズムや情緒の安定にもつながります。ベビーカーや車いすなどでちょっとひとまわり,という場面も,座位の保持の機会としても有効であると同時に,様々なものを見聞きしたり,他者と関係したりというきっかけになり,気分転換の効果もあります。

 

■「座る」を支える

 保育や子育てのなかでは座る姿勢をとる機会を意識的に設け,座位保持ができるように身体をつくっていきます。乳児の場合には一般に,食事や遊びのためのいすや机は身体を支えられ安全性が高い家具を選びます。

保育施設やご家庭では一般的な家具ですが,療養環境での導入はまだ「当たり前」にはなっていません。低年齢のこどもたちが,例えば足の骨折で入院しているだけで充分に手は動くのに,このような設えがないばかりに自分で食べる機会が失われてしまうとすれば,入院中の本人やご家族のストレスも溜まりますし,ご自宅にもどってからも大変な思いをされることもあり得るのではないでしょうか? このような家具は,プレイルームや食事の場所に導入されている事例もあります([45.集団活動の機会])。こどもたちにとって,できるだけ「当たり前」の生活であることが,ストレスを軽減させ,主体性を含めた成長・発達につながっていきます。

 

■歩行や立ち上がりを誘う

周囲に,立ち上がりの手がかりになる家具などの設えがあると,こどもたちの立ち上がりを誘います。家具などに長さがあれば,伝い歩きにつながっていきます。病気や治療の影響などで,身体能力に低下が見られたり,身体能力の発達に遅れが見られる場合がありますが,リハビリ室など特別な場所での「リハビリ」だけではなく,ごく身の回りの生活のなかでの動きが自然にリハビリに結びついていきます。

 写真は,作り付けの家具を手がかりにして,こどもた立ち上がり,伝い歩きをしている場面です。家具だけでなく,玩具などが見える場所に合って,手を伸ばせば支えがあって,移動の目的になるものがあると,こども自身の「あそこに行きたい」「あれを取りたい,触りたい」といった気持ちの助けになります。

【参考文献】山田あすか:「「あの子」の記録(エピソード) 実践例に見る建築計画の意義と責任について」,<http://blog.goo.ne.jp/yamadaasukalab/e/ef0042f46

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■ほふくを誘う

 歩き出す時期の前に充分にほふくをすることが,背筋などを鍛えスムーズで安定的な立位と歩行,また健やかな身体づくりに役立つことが知られています.そのため保育施設では,畳敷きなど反発がありつつ,転倒時の衝撃を和らげられる仕上げがされた充分なほふくスペースを設けています。小児の病棟にもこのようなすペースを設ける例がしばしばあります。たたみや絨毯,コルクタイルなどの床座のしつらえでは、こどもたちがほふくで動くことができます。くつを脱いで過ごせるので,こどもや保護者もくつろいで滞在することができます。

 別の園の、スタッフの休憩スペースです。ソファ、チェア、照明などで場がつくられ、とても親密な、落ち着けるスペースとなっています。
 保育施設は、こどもたちのための場だというだけではなく、スタッフにとってはプロとしての労働の場でもあります。スタッフもまた、こどもと同様に大切な存在として配慮されていることが、環境づくりを通して伝えられ、共有することはとても重要なことでしょう。

 

情緒の安定
1.アプローチの期待感
2.気持ちの切り替え空間
3.気分転換ができる
4.小さな居場所
5.生活やくつろぎの雰囲気
6.治療・検査時の心的負担の軽減
豊かな感性
7.「触」覚のある環境
8.遊びのなかの触覚
9.全身で感じる遊び
10.においの体験
11.風と気づき
12.光の体験
13.日常的に美に触れる
豊かな心情
14.「演じ」て理解する
15.表現する−音楽
16.表現する−絵画,造形
自然と生命への
畏敬と愛情
 
20.自然に親しむ
21.季節を感じ,楽しむ
22.命を感じ,親しむ
創造性の芽生え
14.「演じ」て理解する
15.表現する−音楽
16.表現する−絵画,造形
17.物語が編み込まれた環境
18.遊び込める仕掛け
19.見立てを誘う環境
豊かな言葉
36.文字や数字がある環境
37.知識や物語の泉に触れる
38.読み聞かせの演出
39.ショウ&テルの機会
思考力
31.伝統文化を遊ぶ
32.自国の文化を知り,親しむ
33.多様性を体感する
34.電子メディアとの適切な距離感
35.「不思議」,科学の目の芽生え
自主性・主体性・意欲
51.「基地」空間
52.アフォーダンスの演出
53.遊びの可視化
54.遊びの保存
55.片付けのための工夫
56.遊びの場の保障
57.集中して遊べる空間
58.プレパレーション
自立と自律
23.時間の可視化
24.日課の可視化
25.音で場面や行為を知る
26.流れをデザインする
27.「自分で」を支える
28.着脱の自立への配慮
29.排泄の自立への配慮
30.身近な手洗い場
 
関わる
喜んで話したり
聞いたりする態度
 
39.ショウ&テルの機会
40.仲間の共有
41.保育単位の連携と柔軟性
42.交流の拡がりを誘う空間
43.育ち合いの仕組み
人に対する愛情と信頼感
43.育ち合いの仕組み
47.命の祝福
48.自己の成長の確認
49.生活の振り返りの機会
50.作品の展示
他者大切にする心
協調性
 
44.協働の達成感と喜び
45.集団活動の機会
46.集団のなかでの個の尊重
空間把握と身体の把握
59.拡がりのある空間の体験
60.立体的な空間の体験
61.俯瞰する体験
62.安全と危険の感覚
身体の発達
63.歩行や立ち上がりを誘う設え
64.身体を動かす仕掛け
65.午睡や休憩での配慮
食への興味と関心
66.調理との関わり
67.食べ物を知る
68.食べ物を育てる体験
 
家庭地域との連携
69.地域の文化と伝統に親しむ
70.地域との連携
71.時間の共有
72.情報を伝える仕掛け
73.スタッフとこどもや家族との関係を  つくる仕掛け
74.家族とつくる環境
75.家族と家族の活動の支援
76.家族同士の関係をつくる仕掛け