小児病棟では,病棟入口の柱を
囲むように,汽車のオブジェがが設け
られています。ポップな色調の,こど
もたちに人気のモチーフである汽車の
オブジェがあることで,入院するこど
もの恐怖心を軽減させます。このオブ
ジェは,患児の家族がつくったもので
,いまは病棟のシンボルとなっています。またここは,こどもたちの遊び場
のひとつにもなっています。
こどものころから,それぞれ多彩な文化や言葉を有する国や地域があり,職業や肌の色,宗教や考え方などもさまざまな人々がいることを体験的に知っていることは,こどもの多様性への感受性や寛容さ,国際性などの土台になります。
「知らないこと」には,人は本能的に恐怖を覚えますし,「理由もわからず痛いことをされる」「よくわからないのにベッドや部屋に閉じ込められる」となれば,パニックになったり,そのようなことをされることを拒否するのも当然といえます。
保育の時間を保育者と家庭で共有することは、こどもの体験や成長・発達を統合的に捉えることにつながります。
保育者のいる時間帯には付添家族が少しだけ自分の時間ができる時間帯,と位置づけている場合があります。家族にとっては大切な息抜きや,用事を済ませる時間帯となっているでしょう。
こどもが病気や怪我をしたとき,家族には相当な心理的・物理的な負担が生じます。経済的な問題があることもあります。
家族同士の関係ができることで,療養生活やその後の生活,家族関係などの不安や負担感を和らげたり,あらかじめ治療の内容や過程の情報を得ておくことで安心感を得られるといった,家族の支え合いの関係がつくられていきます。
スタッフと,こどもや家族との関係ができていることは,こどもと家族の治療への前向きな姿勢を引き出したり,関係者が一体となってこどもの療養や成長・発達に向かう体制づくりの基礎となります。
お誕生日のお祝いは,「生まれてきてくれたことに感謝し,祝福する」こと。個人とその存在を受け止め肯定すること,それを伝える重要な機会です.
こどもたちに遊び内容に応じた「場」を保障することは,いつでもその遊びに戻れるという安心感を与えます。こうした安心感があることで,遊びを中断して生活(休憩や食事など)や治療(検査や服薬など)の時間をとるなどの活動の移行もスムーズに行うことができます。
「知らないこと」には,人は本能的に恐怖を覚えますし,「理由もわからず痛いことをされる」「よくわからないのにベッドや部屋に閉じ込められる」となれば,パニックになったり,そのようなことをされることを拒否するのも当然といえます。
病棟など療養環境へのなじみやすさは,人間関係の構築などによってサポートできますが,日々の気持ちの切り替えにさらに配慮があると,こどもたちの前向きな気持ちを引き出すことができます。
気分転換ができる場所があることで,ストレスを上手に発散しながら,長い期間を過ごしていくことができます。スタッフにとっても同様に,気分転換できる場所があることは勤務時間内の適度な緊張や心理的な余裕を保つことにつながります。
自分の身体の大きさに合った小さな場所にいるとき,守られている感覚をもったり,落ち着いた気持ちで過ごすことができます。こどもたちにとっても,身体が包み込まれ,守られている感覚で過ごすことができる場所は,情緒を安定させてくれる存在です。
病棟で生活するこどもたちにとって,家庭の延長にある穏やかな環境のなかで,こどもたちが自然体にすごすために重要なことです.また生活内に安心した空間があることは,こどもたちの安心感を与え,治療に対しての恐怖心を軽減させることもできます.
処置室での様々な処置や検体採取などは,こどもにとって負担であることが多くあります。 このため,多くの処置室では処置室の壁や天井,機材などに,こどもの不安や緊張を和らげる工夫をしています。
触覚は,皮膚の感覚であると同時に,身体を動かしたときの環境の応答や,風などの環境の動き,つまり身体と環境の関係を身体全体で感じる感覚でもあります。
遊びに,水や砂,泥,粘土,ビー玉や小枝,木の実などを取り込むことで,こどもが多様な触覚を体験することができます。衛生管理などの面から直に触ることができなくても,ペットボトルに入った「ビー玉」と「どんぐり」のカラカラとした感覚の違いなど,感じて楽しむことができます。
発達になんらかの障碍をもつこどものなかで,特に自閉傾向をもつ児には,触れる・触れられる感覚を遊び≒快の感情と結びつけて学習し,身体感覚を得て運動に結びつけていく感覚運動療法が採り入れられることがあります。この療法では例えばボールプール,トランポリン,ハンモック,ブランコなどが使われます.
においと結びついた多様な経験は,後に振り返ったときの記憶をみずみずしく,豊かな体験として彩ってくれるでしょう。もちろん日々の生活のなかでも,こどもたちの感性を豊かに育て,創造力を刺激したり,情緒の安定にもつなげることができます。
風を見たり聞いたりする当たり前の事象を意識にのぼらせていくことが,こどもたちの感性や科学の芽の育ちにつながっていきます。
「物語」を通して,こどもたちが自分たちの状況を理解したり,納得できたりすることがあります。例えばイソップ童話などは,物語やたとえ話を通して,望ましい生き方や考え方を誘導しています。
光の演出によって,こどもたちの情緒を安定させたり,こどもが光の多様性に気づき,感性や創造力を伸ばすことを助けることができます。
こどもたちが集中して遊び込む中で,創造性や思考力,自主性や感性が鍛えられていきます。自分の作品や遊びを大切に思う気持ちは,他者にもそうした思いがあることを気づかせ,他者理解にもつながります。
玩具や遊具を他のものとして扱う「見立て」は,こどもにしばしば見られる行動です。見立て遊びのなかで,創造性や思考力,自主性が鍛えられていきます。
自然のなかには,「不思議」や「あこがれ」「恐怖」「美しさ」などのこどもや大人の心を動かす要素がたくさんあります。自然に親しむことで,自然と生命への畏怖と愛情が育ちます。また,感動や情動,不思議の体験を通して創造性や思考力,豊かな感性も育まれるでしょう。
我が国は,四季折々の表情のある美しい国です。療養生活を送るこどもの中には,感染管理などの問題から外に出ることが難しいこどももしばしばいます。そのようななかでも,季節ごとのイベントや制作などの遊びを通して,季節を感じ,楽しむことができます
自国の文化を知り,親しむことは母国やその歴史への愛着を育み,自己肯定感や国や郷土を愛する気持ちを育てます。それは,アイデンティティの一部として自国を客観的に語る視点や能力に結びついていきます。こ
こどもたちが日常生活のなかの美に気づけるよう,物理的な環境をつくるとともに,保育者や保護者が声かけをしたり,一緒に時間を味わう機会をもったりしたいものです。
おままごとやお世話遊びは,「演じる」遊びの一種と言えます。「演じる」遊びでは,ある役割になって行動することで,その気持ちや立場,望ましい振る舞いを遊びを通して理解し,身につけることができます
音楽は、音やメロディ、リズムを通して身体能力や感性を育てます。また、音楽は表現のひとつのかたちでもあります。日々のさまざまな思いを,絵画や制作,音楽,演技,お話などによって表現することは,ストレス下にあるこどもたちの成長や生活の観点からとても大切なことです。
日々のさまざまな思いを,絵画や制作,音楽,演技,お話などによって表現することは,ストレス下にあるこどもたちの成長や生活の観点からとても大切なことです。
就学や,その先の社会参画へのつながりに鑑みても、集団での活動ができ、それを楽しめることは大切なことです。一方で、それぞれが独立した個であり、それぞれの考えをもっていることを理解し、それを尊重できることも、安定した自我の形成に向けた大きな課題となります。
こどもたちが遊びに集中できることは、こどもがその活動をしたいという主体性や意欲をもて,それを持続することができていると言い換えることができます。“自立的に遊んでいる”とも言えるでしょう。
こどもたちは大きい空間,(水平方向への)拡がりのある空間に身を置くと,思わず歩いたり、走ってみたくなったり,大きな声を出したくなったりなど,自然に「発散」のモードになります。
アフォーダンスとは、「もの」などの環境に内在する、動物にとっての行為の可能性と定義されます。人などの動物はそれがある「もの」であるから行為・行動を起こすのではなく、それがある行為・行動を可能にするものであるから、その行為に至るのだ、という考え方です。
展示場所は、他のこどもやご家族,スタッフも目にする廊下等の動線上やプレイルームなどに展示すると、こども同士やご家族,スタッフの会話のきっかけにもなります。
こどもたちは、乳児期から探索行動の拠点として心理的な「安全基地」を必要とすることが知られています。安全基地は、しばしば母親や保育者を指して言われ、見守ってくれている人、何かあればいつでも助けてくれる人、不安を感じればその人のところへ戻れるという確信が、積極的な探索を誘うとされています。
目に見えているもの、聞こえるもの、香りなども含めて環境からの情報は、行為・行動や興味関心を刺激します。例えばおもちゃがしまわれていると、そのおもちゃで遊びたい、という気持ちは、今までの記憶のなかにあるそのおもちゃの存在や経験に基づいてのみ発現します。
遊びの内容による空間の切り分けや空間への意味づけ,作り込みをゾーニングと呼びます。
声かけだけ,または声かけがなくともじぶんたちで片付けができるようになることは,こどもたちの成長過程のなかでとても大切です。
俯瞰する(見下ろす)体験は,空間を認識する能力の発達につながります。地上レベルで見えているものや風景と,それらを上から見下ろしたときに感じられる互いの位置関係や,それぞれの場所の大きさなどはずいぶん感覚が違うものです。
立体的な空間とは,たとえば吹き抜けや中二階,ロフト,視野が拡がる階段などがあって,空間が2層・3層になっている空間,それが感じられる空間を指します。保育施設やご家庭では,平面的な拡がりはあっても,立体的な空間を体験しにくいことが少なくありません
治療の過程で,ちょっとした怪我や感染が命取りになることもあるため,療養環境において安全性や衛生を確保することは大原則です。
命を感じ,命に親しむことはこどもたちの感性や心情を豊かにします。また,生き物をかわいがる経験を通して前向きな意欲をもつこどもがいることもしばしば聞かれます。
手洗い場が身近にあることは,こどもや家族が手洗いをしやすく,また手洗いをしようという気持ちになりやすいため,衛生面での良い効果や,衛生観念の発達が期待できます。
必要に応じてこどもが自分で時間を確認できると,時間が「目に見える」て,時間が過ぎていく様子やある時刻が迫っていることがわかります。このような環境づくりによって,こどもたちが時間の感覚を身につけることができ,こどもたちの自立と自律を促すことができます。
自国や郷土の文化を知り,親しむことはこどもの自己肯定感や,国や郷土への愛着を育てます。身近な生活の範囲でも,国や地域での伝統文化を遊びにとり入れることが,文化とその継承へのこどもの興味関心を育てます。
「不思議」を感じることやそれを他者と共有することはこどもたちの感性を育て,そこに物語を見いだす想像力を育みます。
プレイルームなどで,「いまこどもたちに読んで欲しい本」「関心をもつだろう本」を選んで,表紙が見えるように飾ることがよくあります。表紙が見えるとやはりこどもは興味をそそられますし,本を読むことを誘うセッティングとして,とても有効です。
こうした媒体や機器を含むメディアは,こどもの成長・発達,特に心身や創造性の発達,社会性の発達に悪影響をもたらすとされることもままあります。しかし冷静に考えれば,その理由はメディアそのものというよりも,メディアの使い方や,メディアとのつきあい方にあるはずです
文字や数字といった抽象的な記号に日常的に触れることで,数の概念や文字の概念に自然に親しむことができます。幼児期に適切な介入を受けなかった場合,「言葉(ものの名前)」と「それを表す記号(文字)」の対応関係に理解に時間がかかるケースが報告されています。
自分の考えや経験を少し改まった場面で人に話す,人の話を聞くという経験は,場面に応じた話し方や態度の習得など、人と関わる力を育てます。また,仲の良い友達どうしで雑談をするというだけではなく,テーマのあるお話を筋道立てて話すことで,思考力や感性,豊かな言葉が育ちます。
読み聞かせは,こどもと親や保育者,または小さなこどもと本を読めるようになった年上のこどもが同じ時間や物語を共有する機会です。お話を聞くことに意味があるばかりでなく,時間や物語を大好きな人と共有することをこどもたちはとても喜びます。
行事などを中心として,日々の生活を振り返り,思い出やその時々の想いを表現し,まとめておくことは,感情や記憶を整理するとても大切な機会です。
複数の時点での作品や写真などを見ることで,こどもの成長と発達の過程を,こどもとご家族,また保育や看護のスタッフなどが共有できます。
こどもたちが自発的に身体を動かすことは,自然なリハビリや,運動量の確保につながります。また,身体を動かすことで身体の運動の統合が促され,空間や自身の身体を把握する力,認知・判断力,思考力等の成長が助けられます。
午睡や休憩は,療養ばかりでなくこどもの心身の適切な発達や、生活リズムを整えて心身の健やかな状態を保つことにつながります。もちろんこうした状態が、情緒の安定にとっても大切になるでしょう。
食事は文化のひとつであり,食生活は療養にも直接つながるもので,その後の成長や心の形成の基盤のひとつともなります。また,誰かと食をともにすることは,人間関係の構築にもつながります。
野菜や果物を育てるなかで,生き物の命に対して責任をもつ気持ちや,協力する態度,豊かな心情や感性が育っていくことでしょう。
こどもが自分の持ち物棚がわかるためには,小さな年齢のこどもには自分の顔写真(保護者と一緒の写真を使うこともあります。持ち物棚に掲示する,少し大きくなるとこども1人ひとりに固有の「マーク」を用意して,分散配置されるそれぞれのこどもの持ち物の所定の位置にそのマークを貼る,などの工夫がしばしば見られます。
こどもにとっての「トイレ」とは、排泄行為のための空間だというだけではなく、排泄という基本的生活行為を学び、習慣づけるための空間でもあります
こどもの「自分で,自分で」の主張は,自分も一個の人間として尊重されたいという思いや,好奇心の現れと言われます。そうした「自分で」という思いを引き出し,守ることで,こどもの自主性や自立と自律を支えることができます.
こどもたちの自主性や自立と自律を促すため,歯磨きや食事の身支度などの生活行為や,遊びの片付けなどをこどもたち自身がやるようにサポートすることがあります。
こどもが場面ごとに相応しい行為や行動があることを理解すること,またそれぞれの場面でそのようにふるまえることは,こどもの自立と自律や主体性につながっていきます。求められていることがらを感じようとすることで思考力も鍛えられるでしょう。
一日の流れが安定していると,こどもや家族が見通しを持って生活できるため,こどもたちが主体的に動くことができ,情緒も安定します。
特に移動能力の獲得は,乳児期の身体能力の成長・発達において重要な課題とされています。ほふく,伝い歩き,歩行・・と,こどもたちは自分自身の身体を動かすことで,身体能力や空間把握能力を身につけ,探索行動を発現させていきます。
異年齢のこどもたちの自然な交流が起こることは,こどもたちの世界を拡げます。低年齢児は,お兄さん・お姉さんの遊ぶ様子や活動に打ち込む様子を見て,興味関心を拡げて成長や挑戦への意欲をもつでしょう。
誰しも,自分が知っているものごとや人には親しみをもちます.ともに病や怪我とたたかい,ともに成長する仲間をこどもや親どうしが知ること(仲間の共有)は,こどもの感性の発達や情緒の安定につながります。
こどもたちや付添家族は,特に病棟の生活に慣れていない時期には,一般に小規模での活動を好みます。その後,交流関係がひろがっていくなかで,複数のグループが一緒に活動する場面も増えてきます。
他者を大切にする心や、他者との関わりを喜ぶ態度を育てるために、こどもたちが協働してなにかをやり遂げ、その達成感や喜びを共有する体験をもつことが推奨されています。
経験や身体の大きさ,能力など「自分と違う」人との関わりを楽しみ,喜ぶ態度は,社会でのコミュニケーション能力の土台となります。こどもたちは,お互いにとって,大人とは違って自分の思いを先回りして察してくれたり,気持ちが充分に伝わらなかったりする,「思い通りにならない他者」です。
集団活動の機会は、集団の規律を身につけるとともに、集団遊びのルールを守ることで、例えばゲームが成立することや、楽しく遊ぶことができるのだということを理解することにつながります。
自分たちが食べているものがどこから来ているのか,どのように作られているのかを知ることやそれらに興味や関心をもつことは,食育の大きな柱のひとつです。
療養環境での保育を通して,こどもや保護者が地域に愛着をもつ支援をすることができます。家庭や保育施設等での子育てや保育でも同様ですが,地域の文化に近しく触れ,歴史やいわれを知ることなど,身近に,日常的に地域の文化があることが愛着や豊かな心情を育てます。
地域との関係は,こどもたちの療養生活を支えるとともに,地域での生活に移行・復帰していくための重要なアンカーになります。
「知らないこと」に対しては,不安感や疎外感をもちやすく,精神的に遠く感じがちですが,逆に環境や病気への情報が充分にあれば,なじみを感じたり,前向きに向かい合うことができやすくなります。