こどもたちに遊び内容に応じた「場」を保障することは,[54.遊びの保存]と同様に,いつでもその遊びに戻れるという安心感を与えます。こうした安心感があることで,遊びを中断して生活(休憩や食事など)や治療(検査や服薬など)の時間をとるなどの活動の移行もスムーズに行うことができます。

 「明日また遊ぼう」などの,病棟での生活や遊び,気持ちや人間関係の継続性や,見通しをもつことにもつながります。こうしたことは情緒の安定につながります。また連続する時間や日々のなかに自分の遊びを位置づけられることで,安定した気分のなかで感性や心情を深めることもできるでしょう。

 遊びの場の保障には,遊びの場所として特化したプレイルームがあることはもちろん,プレイルームが[53.遊びの可視化]などとともに,空間をそれぞれの遊びの内容に即して分割されていること(ゾーニング)が有効です。

トップの写真の病棟ではプレイルームのなかに,畳が敷かれた小上がりやテーブルを設けて,複数の居場所を作り出しています。テーブルは,食事や集まり,制作などの机遊びのための場所として位置づけられています。

 写真の様子からは,複数のこどもたちがそれぞれのペースや集団規模で,遊びを併存的に行っていることがわかります。また,机で制作をしているこどもは骨折で足の入院しているこどもですが,テーブルは車いすでもそのまま遊べる場所,小上がりが靴を脱いで寝転がったりして遊べる場所と,場所が使い分けられています。

 

 音楽や絵画,演技などで表現することはこどもたちの気持ちの発散や,自分で自分の気持ちを理解することなどを介して,情緒の安定や心情の醸成につながります。病棟の中に,そのような表現する遊びができるアトリエスペース(「16.表現する-絵画,造形」)や,演じるスペース(「14.「演じ」て理解する」)があっても良いでしょう。

 このようなスペースはさらに外部のテラスやフリースペースなどに連続しているといった建築的な配慮があれば,つくったもので遊んだり,隣接するスペースで大きな作業をしたりといったさらに発展的な遊びも期待できるでしょう。建築空間と,建築内部のインテリアや設えといった,レベルの異なる環境が一体的につくられていることが,豊かで魅力的な環境をつくりだします。

 病棟の方針や疾患,対象とする年齢などによっては,遊びの空間を,家具などで視覚的にはあまり区切りたくないという場合もあります。そうした場合に遊びの内容に即して空間の一部を意味づけ,遊びの場を保障するためには,床材の変化が有効です。写真では,カーペットを敷いて,手前の空間と奥の空間を心理的に分けています。同様に,畳やタイルカーペット,コルクタイルなどの床素材を使うと,その場所が他と違う場所だという印象を与えることができます。

 

情緒の安定
1.アプローチの期待感
2.気持ちの切り替え空間
3.気分転換ができる
4.小さな居場所
5.生活やくつろぎの雰囲気
6.治療・検査時の心的負担の軽減
豊かな感性
7.「触」覚のある環境
8.遊びのなかの触覚
9.全身で感じる遊び
10.においの体験
11.風と気づき
12.光の体験
13.日常的に美に触れる
豊かな心情
14.「演じ」て理解する
15.表現する−音楽
16.表現する−絵画,造形
自然と生命への
畏敬と愛情
 
20.自然に親しむ
21.季節を感じ,楽しむ
22.命を感じ,親しむ
創造性の芽生え
14.「演じ」て理解する
15.表現する−音楽
16.表現する−絵画,造形
17.物語が編み込まれた環境
18.遊び込める仕掛け
19.見立てを誘う環境
豊かな言葉
36.文字や数字がある環境
37.知識や物語の泉に触れる
38.読み聞かせの演出
39.ショウ&テルの機会
思考力
31.伝統文化を遊ぶ
32.自国の文化を知り,親しむ
33.多様性を体感する
34.電子メディアとの適切な距離感
35.「不思議」,科学の目の芽生え
自主性・主体性・意欲
51.「基地」空間
52.アフォーダンスの演出
53.遊びの可視化
54.遊びの保存
55.片付けのための工夫
56.遊びの場の保障
57.集中して遊べる空間
58.プレパレーション
自立と自律
23.時間の可視化
24.日課の可視化
25.音で場面や行為を知る
26.流れをデザインする
27.「自分で」を支える
28.着脱の自立への配慮
29.排泄の自立への配慮
30.身近な手洗い場
 
関わる
喜んで話したり
聞いたりする態度
 
39.ショウ&テルの機会
40.仲間の共有
41.保育単位の連携と柔軟性
42.交流の拡がりを誘う空間
43.育ち合いの仕組み
人に対する愛情と信頼感
43.育ち合いの仕組み
47.命の祝福
48.自己の成長の確認
49.生活の振り返りの機会
50.作品の展示
他者大切にする心
協調性
 
44.協働の達成感と喜び
45.集団活動の機会
46.集団のなかでの個の尊重
空間把握と身体の把握
59.拡がりのある空間の体験
60.立体的な空間の体験
61.俯瞰する体験
62.安全と危険の感覚
身体の発達
63.歩行や立ち上がりを誘う設え
64.身体を動かす仕掛け
65.午睡や休憩での配慮
食への興味と関心
66.調理との関わり
67.食べ物を知る
68.食べ物を育てる体験
 
家庭地域との連携
69.地域の文化と伝統に親しむ
70.地域との連携
71.時間の共有
72.情報を伝える仕掛け
73.スタッフとこどもや家族との関係を  つくる仕掛け
74.家族とつくる環境
75.家族と家族の活動の支援
76.家族同士の関係をつくる仕掛け