就学や,その先の社会参画へのつながりに鑑みても、集団での活動ができ、それを楽しめることは大切なことです([45.集団活動の機会])。一方で、それぞれが独立した個であり、それぞれの考えをもっていることを理解し、それを尊重できることも、安定した自我の形成に向けた大きな課題となります。病棟などは療養のための集団生活の場であることが前提となりますが,病気や怪我の経緯や心身の状況等,さまざまなこどもやご家族の生活や療養の場としても,個の尊重は重要な課題だといえます。自我の独立性と個別性を自覚することで、自主性や自律と自立の精神が育まれるとともに、豊かな心情や情緒の安定につながるでしょう。またなにより、自分と同様に他者にも固有の自我があることを解し、他者を大切にする心や協調性につながっていくでしょう。

 集団の中での個の尊重を環境が支えるためには、まずは一人、あるいはごく少人数でいられることが大切です。一人でいられる場所があること、一人でいるようにデザインされた場所があることは、一人という活動単位を自然に促し、またそれが他者の目から見ても自然に写ります。「一人でいること」は、時には当然のことなのだ、としてこどもや保育者が受け入れられる環境設定は、個別の活動や滞在、個が尊重される土壌づくりをサポートします。


                      (富山大学附属病院)

 窓辺に設けられた小さな空間で,中学生のこどもが1人で過ごしています。外が眺められること,音楽が聴けること(CDコンポが窓辺に置いてあります)など,この場所にいることを誘う環境要素が設けられており,集団の中でも自然に1人でいることができます。
[51.「基地」空間][2.気持ちの切り替え空間][4.小さな居場所]も参照してください。集団とつかず離れずの距離で、こどもが一人やごく少人数の集団でもいられる環境づくりは、こどもたちの発達や心のあり様、あるいはその時々の気持ちの状態の多様性をそのまま認め、受け止める土壌となります。

 プレイルーム以外にも,ロビーや廊下など,病棟内外の共用空間に設置されたベンチなどの滞在場所も,同様に1人の場面を誘うでしょう。また,患者図書館などこどもが使える院内の施設なども,1人になれる場所となります。

 症状などによっては,プレイルームなどの共用空間に出られないこどももいます。また,自分の周囲の環境での安心感が一番最初のなじみの足がかりになる場合もあります。このような場合,病床まわりでのパーソナライゼーション(その人らしく環境を設えること)が「個の尊重」に結びついていきます([48.自己の成長の確認])

  トップの写真は,絵本を滞在の手がかりとして,1人や小人数でいられる場所が計画されたプレイルームでの場面です。こどもと付添の家族が,小さな空間で自分たちだけの時間を過ごしています。単に小さな場所があるというだけではなく,その場所にいる理由が一緒にデザインされていると,より「1人」や「小人数」でいることが自然に成立します。

 

情緒の安定
1.アプローチの期待感
2.気持ちの切り替え空間
3.気分転換ができる
4.小さな居場所
5.生活やくつろぎの雰囲気
6.治療・検査時の心的負担の軽減
豊かな感性
7.「触」覚のある環境
8.遊びのなかの触覚
9.全身で感じる遊び
10.においの体験
11.風と気づき
12.光の体験
13.日常的に美に触れる
豊かな心情
14.「演じ」て理解する
15.表現する−音楽
16.表現する−絵画,造形
自然と生命への
畏敬と愛情
 
20.自然に親しむ
21.季節を感じ,楽しむ
22.命を感じ,親しむ
創造性の芽生え
14.「演じ」て理解する
15.表現する−音楽
16.表現する−絵画,造形
17.物語が編み込まれた環境
18.遊び込める仕掛け
19.見立てを誘う環境
豊かな言葉
36.文字や数字がある環境
37.知識や物語の泉に触れる
38.読み聞かせの演出
39.ショウ&テルの機会
思考力
31.伝統文化を遊ぶ
32.自国の文化を知り,親しむ
33.多様性を体感する
34.電子メディアとの適切な距離感
35.「不思議」,科学の目の芽生え
自主性・主体性・意欲
51.「基地」空間
52.アフォーダンスの演出
53.遊びの可視化
54.遊びの保存
55.片付けのための工夫
56.遊びの場の保障
57.集中して遊べる空間
58.プレパレーション
自立と自律
23.時間の可視化
24.日課の可視化
25.音で場面や行為を知る
26.流れをデザインする
27.「自分で」を支える
28.着脱の自立への配慮
29.排泄の自立への配慮
30.身近な手洗い場
 
関わる
喜んで話したり
聞いたりする態度
 
39.ショウ&テルの機会
40.仲間の共有
41.グループ規模の柔軟性
42.交流の拡がりを誘う空間
43.育ち合いの仕組み
人に対する愛情と信頼感
43.育ち合いの仕組み
47.命の祝福
48.自己の成長の確認
49.生活の振り返りの機会
50.作品の展示
他者大切にする心
協調性
 
44.協働の達成感と喜び
45.集団活動の機会
46.集団のなかでの個の尊重
空間把握と身体の把握
59.拡がりのある空間の体験
60.立体的な空間の体験
61.俯瞰する体験
62.安全と危険の感覚
身体の発達
63.歩行や立ち上がりを誘う設え
64.身体を動かす仕掛け
65.午睡や休憩での配慮
食への興味と関心
66.調理との関わり
67.食べ物を知る
68.食べ物を育てる体験
 
家庭地域との連携
69.地域の文化と伝統に親しむ
70.地域との連携
71.時間の共有
72.情報を伝える仕掛け
73.スタッフとこどもや家族との関係を  つくる仕掛け
74.家族とつくる環境
75.家族と家族の活動の支援
76.家族同士の関係をつくる仕掛け