自然のなかには,「不思議」や「あこがれ」「恐怖」「美しさ」などのこどもや大人の心を動かす要素がたくさんあります。自然に親しむことで,自然と生命への畏怖と愛情が育ちます。また,感動や情動,不思議の体験を通して創造性や思考力,豊かな感性も育まれるでしょう。

 こども病院のエントランスホールの一角に,植物が植えられ,タイル貼りの「小川」を水がさらさらと流れるコーナーが設えられています。病棟から出てきて少し散歩をする親子がいたり,診察や薬の受け取りの待合のひとときなどに休憩をする人がいたりと,訪れる人の耳目を癒してくれます。

 植栽が施された屋上庭園が設けられている事例です。車いすでも散歩ができるレンガタイルの道がゆるやかにまがりながら続き,ところどころにベンチがおかれています。ここはこどもや付添家族が自然に親しみながら気分転換ができる場所になっています。
このような場所は外気浴や,病院の雰囲気を少し離れたリハビリの場など医療の面からも役立ちます。

 

自然の外気を感じられる場所が,プレイルームに隣接したベランダとして設けられている事例もあります。こどもたちはこのベランダに自由に出られるようになっています。また病気の治療(入眠導入のタイミング待ちなど)でしばらく起きていなければいけないこどもが,このベランダで外気に触れて気分転換をすることもあるそうです。

 外に出られないこどもたちでも,ベランダの外に鉢植えがある,植栽のある屋上庭園がある,などの環境づくりによって,(窓越しなどであっても)自然の移り変わりを目にすることができるでしょう。
レイチェル・カーソンは著書『センス・オブ・ワンダー(神秘さや不思議さに目を見はる感性)』のなかで“・・生まれつきそなわっている子どもの「センス・オブ・ワンダー」をいつも新鮮にたもちつづけるためには,わたしたちが住んでいる世界のよろこび,感激,神秘などを子どもと一緒に再発見し,感動を分かち合ってくれる大人が,すくなくともひとり,そばにいる必要があります。”と書いています(*)。
こどもの興味や好奇心が動いているときに,あるいは動くように,保育者や保護者が一緒に楽しみながら,さまざまな知識を伝えたり,物語の語りかけをしたいものです。タンポポの綿毛がなぜあるのかや,タンポポの花の茎は花が咲いているうちは低く,綿毛をつける頃にすっくと伸びることなどは大人が考えても,面白いことではないでしょうか(**)。
しかし,レイチェル・カーソンは先述のくだりに続けて,こうも書いています。“もし,あなた自身は自然への知識をほんのすこししかもっていないと感じていたとしても,おやとして,たくさんのことを子どもにしてやることができます”。“「知る」ことは「感じる」ことの半分も重要ではない”,そして“美しいものを美しいと感じる感覚,新しいものや未知なものにふれたときの感激,思いやり,憐れみ,賞賛や愛情などのさまざまな形の感情”がしっかりとした知識に結びついていくのだ,と。知識よりも,こどもと一緒に「感じる」ことができることのほうが,ずっと大切だと彼女は言っています(*)。自然の中には,そのように感性を開かせる要素がたくさんあります。

* レイチェル・カーソン(上遠恵子訳)『センス・オブ・ワンダー』,新潮社版,1996.07(46刷2006.09)
** 余談ですが,筆者は「ドラえもん」の単行本18巻の巻末の一話「タンポポ空を行く」が大好きです。さまざまな物語を自分のなかに持つことで,なにかを見たときに思い出すことがらがネットワークのように拡がります。物語は,世界を見る目を豊かにします。

情緒の安定
1.アプローチの期待感
2.気持ちの切り替え空間
3.気分転換ができる
4.小さな居場所
5.生活やくつろぎの雰囲気
6.治療・検査時の心的負担の軽減
豊かな感性
7.「触」覚のある環境
8.遊びのなかの触覚
9.全身で感じる遊び
10.においの体験
11.風と気づき
12.光の体験
13.日常的に美に触れる
豊かな心情
14.「演じ」て理解する
15.表現する−音楽
16.表現する−絵画,造形
自然と生命への
畏敬と愛情
 
20.自然に親しむ
21.季節を感じ,楽しむ
22.命を感じ,親しむ
創造性の芽生え
14.「演じ」て理解する
15.表現する−音楽
16.表現する−絵画,造形
17.物語が編み込まれた環境
18.遊び込める仕掛け
19.見立てを誘う環境
豊かな言葉
36.文字や数字がある環境
37.知識や物語の泉に触れる
38.読み聞かせの演出
39.ショウ&テルの機会
思考力
31.伝統文化を遊ぶ
32.自国の文化を知り,親しむ
33.多様性を体感する
34.電子メディアとの適切な距離感
35.「不思議」,科学の目の芽生え
自主性・主体性・意欲
51.「基地」空間
52.アフォーダンスの演出
53.遊びの可視化
54.遊びの保存
55.片付けのための工夫
56.遊びの場の保障
57.集中して遊べる空間
58.プレパレーション
自立と自律
23.時間の可視化
24.日課の可視化
25.音で場面や行為を知る
26.流れをデザインする
27.「自分で」を支える
28.着脱の自立への配慮
29.排泄の自立への配慮
30.身近な手洗い場
 
関わる
喜んで話したり
聞いたりする態度
 
39.ショウ&テルの機会
40.仲間の共有
41.保育単位の連携と柔軟性
42.交流の拡がりを誘う空間
43.育ち合いの仕組み
人に対する愛情と信頼感
43.育ち合いの仕組み
47.命の祝福
48.自己の成長の確認
49.生活の振り返りの機会
50.作品の展示
他者大切にする心
協調性
 
44.協働の達成感と喜び
45.集団活動の機会
46.集団のなかでの個の尊重
空間把握と身体の把握
59.拡がりのある空間の体験
60.立体的な空間の体験
61.俯瞰する体験
62.安全と危険の感覚
身体の発達
63.歩行や立ち上がりを誘う設え
64.身体を動かす仕掛け
65.午睡や休憩での配慮
食への興味と関心
66.調理との関わり
67.食べ物を知る
68.食べ物を育てる体験
 
家庭地域との連携
69.地域の文化と伝統に親しむ
70.地域との連携
71.時間の共有
72.情報を伝える仕掛け
73.スタッフとこどもや家族との関係を  つくる仕掛け
74.家族とつくる環境
75.家族と家族の活動の支援
76.家族同士の関係をつくる仕掛け