61.日常的に身体を動かせる環境
特に移動能力の獲得は,乳児期の身体能力の成長・発達において重要な課題とされています。ほふく,伝い歩き,歩行・・と,のびのびと身体を動かすことでこどもは次第に移動能力を獲得し,探索行動に結びついていきます。こうしたことが自発的な意欲を増し,他者との関わり要求の表現や距離感の選択など社会性の成長・発達の端緒ともなります.
また適度に身体を動かすことで良質な睡眠をとりやすくなり,生活リズムや情緒の安定にもつながります.ベビーカーや立ち乗りバギーなどでの外出も,座位や立位の保持の機会としても有効であると同時に,様々なものを見聞きし季節の光や風や気候に触れ,地域との関係を育む契機ともなります.
■「座る」を支える
保育や子育てのなかでは座る姿勢をとる機会を意識的に設け,座位保持ができるように身体をつくっていきます.乳児の場合には一般に,食事や遊びのためのいすや机は身体を支えられ安全性が高い家具を選びます.
家具の工夫では,座位が安定したあとも足の高さを合わせ,姿勢よく,食事や遊びに集中できるよう工夫する例があります.
[26.「自分で」を支える]でも紹介している,椅子のカスタマイズの工夫例です。
歩き出す時期の前に充分にほふくをすることが,背筋などを鍛えスムーズで安定的な立位と歩行,また健やかな身体づくりに役立つことが知られています.そのため建築的には,畳敷きなど反発がありつつ,転倒時の衝撃を和らげられる仕上げがされた充分なほふくスペースを設ける例が多く見られます.
■ のぼる,おりる,乗る
ほふくで段差を超えたり,スロープをのぼることもこどもたちは喜びます.
ホールと保育室が近接した上の写真の例では,ホールでの動的な遊びを日常的に行っています。ホールに面した,階段の下が倉庫になっており,様々な遊具を置いておけ,簡単に取り出せることが日常的なホールの活用を支えています。
さらに,ホールと保育室をつなぐ廊下も動的な活動の場とすることで,こどもたちが身体を動かし身体能力を伸ばす機会を積極的に設けています.
この園では乳児の保育スペースにのぼる・下りる動作を誘う設えが常時あり,こどもたちが意欲的に身体を動かす機会がつねに提供されています.
■ 潜り込む
こどもは,小さな空間や狭隘なスペースに潜り込むことも好みます.
このこどもは,家具とカーテンの隙間に入り込んで,他者からの関わりを待っています.移動能力を獲得し,場所を介して他者と関わりはじめるこの段階では,段ボールなどで囲われた場所,押し入れやベッドの下などの空間が行きたいというこどもの意欲を刺激し,移動を誘います.