28.排泄の自立への配慮

こどもにとって園のトイレとは、排泄行為を行うための空間というよりも、排泄という基本的生活行為を学び、習慣づけるための空間です。トイレは、こどもが喜んで行きたくなるような、明るく清潔で、不安を感じずにリラックスできる、あるいはみんなで楽しく利用できるような空間にしたいものです。

幼児の場合は羞恥心もめばえ,就学に向けた準備という観点からも個別のブースを設けていくことになります.しかし,トイレ空間全体としては一人ずつ個別に利用するプライベートな空間としてではなく、こどもたちがみんなで積極的に赴くことのできるパブリックな空間として捉えてデザインするという、発想の転換も重要ではないでしょうか。

幼児期には次第に羞恥心もめばえてきます.就学準備や社会的な場での日常生活への着地をはかるため,トイレでも個別のブースを設ける時期です.しかし,この年齢段階でもトイレの習慣を適切な確立や,日々の使いやすさの観点から保育空間との連続性を保つことは大切です。これは保育室に隣接したトイレですが、保育室とトイレを完全に別室にするのではなく、壁の配置や高さによって緩やかに仕切っています。

■ 保育室との連続性

このトイレでは保育室とトイレを高さ1m程度のスウィングドアで軽く仕切っています。

さらに高年齢児のトイレでは,スウィングドアに加えて1m程度の低い仕切で個室ブースが設けられています.以上3つの事例では,床の素材も保育室と同じフローリングが用いられています.こどもにとっては、スリッパに履き替えたりすることなく、保育室の一部という意識で利用できるのではないでしょうか。

■滞在場所としてのトイレ

上に示す事例では,トイレ内に数人で座れるベンチが造り付けられています。衣服の着脱がしやすいだけでなく,みんなでトイレにやってきて、他のこどもたちの様子を見ながら座って楽しく順番を待てる仕掛けでもあります。

上の2つの写真は,保育室に設けられた円筒形のトイレ空間と,その内部です。
このトイレは,シンボル性のある意匠や空間演出によってこどもたちの遊び場所ともなっています.こうしたトイレはこどもたちにとって、一人でそっと訪れる場所ではなくみんなの居場所の一つとして感じられるのではないでしょうか。

■みんなでつくる


この例では,まだ乾いていないセメントにビー玉を一緒に埋め込むなど,スタッフもトイレ空間の仕上げに参加しました。人形や,植栽,水槽なども置かれており,空間の密度感が高いことで親しみや安心感のわく空間となっています。こうした環境づくりによって,こどもたちにとってなじみやすいトイレとなっています。

■活動場所に近いトイレ

保育室だけではなく,様々な活動場所からトイレが近いことが大切です。遊び場所からトイレが近ければ,遊びの途中にトイレに行きやすく,失敗も少なくなります。例えば階段状ホールとなっている建築空間と一体的につくられた事例では,時にはトイレが活動場所から連続した遊び場所になることもあります。そうしたシーンはトイレがこどもたちからみて,特別な・遠い場所ではないという証拠で,好ましいことです。

❖日常に溶け込むトイレ

「トイレに行っておいで~」の声かけに対して,「イヤだ!怖いもん!」「寒いから行きたくない」といった反応,ありませんか.あるいは,おしっこをしたいけど,あのトイレには行きたくないなぁともじもじ….そして(だから),失敗.  かつてのトイレには暗い,冷たい,じめじめした,怖い場所だといった印象がついて回ったように思います.こうしたマイナスイメージをもつトイレに対して,明るく,使い勝手に配慮されたトイレが作られてきています.こうしたトイレでは,トイレが日常生活にスムーズに溶け込むことでこどもたちがストレスなく排泄ができ,トイレの習慣化やトイレトレーニングが容易に進むそうです.トイレに行くのが楽しくなる.いえ,トイレに「行く」という感覚をもたないくらい,自然にそこに「ある」ともいえるようなトイレが増えています.

❖オープントイレ:トイレとの「心の距離」

保育室と隣接して,あるいは保育室の中にちょっとエリアを分けるだけで設けられたトイレを,しばしばオープントイレと呼びます.トイレと保育空間の間に仕切りがない,あるいは仕切りがあっても,視線や音が通りトイレ空間が孤立していない,など保育空間とトイレとの物理的な境界がない/少ないと,こどもたちのなかで,トイレとの「心の距離」が小さくなります.心の距離が縮まることで,こどもたちが積極的に,自分からトイレに行きたくなることでしょう.

写真は、保育室内に設けられた完全にオープンなトイレの例です。男児用小便器と,大きさの異なる大便器が置かれています。保育室とトイレとの間には軽い仕切りも目隠しもなく、トイレコーナーとして一体的な空間となっています。ふだん過ごしている空間から隠すのではなく、いつでも目に触れる場所に設けることによって、こどもにとってトイレが身近な空間、日常生活の一部として感じられる場所となっています。他のこどもがトイレに行く様子も見えることから、ほかのこどもの姿をみて真似しながら、自然なかたちでトイレを利用することが促され、スムーズにトイレに移行することが期待されます。閉鎖された空間でないため、便器に座ったまま保育室の様子が見えることも、こどもにとっても安心感を感じられる場所となっているのではないでしょうか。

こちらは,保育室との間に仕切りがあるものの,連続性を感じられるようにデザインされている例です.

既存の建物でも,トイレとの心理的距離を近づけることができます.保育室との間にドアがある場合には,ドアを外したり,できるだけ開けておきます.廊下にトイレがある園の場合は,廊下と保育室の間をオープンにし(できるだけドアを開けておく),廊下も遊び空間として設え,活用することでトイレとの距離を縮めることができます.

❖ドライトイレ

保育室とトイレとの境界をなくすとなると,気になってくるのがトイレの床仕上げ(床の材料)です.昔ながらのトイレの床仕上げは,タイル貼りなどの仕上げでした.お掃除の時には水を撒いて,デッキブラシでごしごし,というタイプです.衛生面でウェット仕上げがいいのだと言われてきたのですが,専門機関の検証により,水を撒いて掃除をするとかえって雑菌が繁殖してしまうことがわかっています.そこで,新しい建物では「ドライ仕上げ(ドライシステム)」を採用することが増えています. ドライ仕上げ,は特別な仕上げではなく,おうちのトイレと同じ仕上げのことです.ご家庭のトイレはたいがい,水を撒いて掃除はしませんね.ドライ仕上げのトイレはこどもたちにとっても違和感がなく,なじみやすいのです.

❖温熱・空気環境にも配慮を

最初に示した例のように保育室と完全に一体化したトイレの場合は,トイレも保育室と同じように暖かく,涼しい温熱環境です.しかし,トイレを別に設ける場合にはどうしてもトイレだけ暑い・寒いとなって,行きたくなくなる原因となってしまいがちです.大人でも,冬場に寒いトイレからはついつい足が遠くなってしまうものです.トイレの温熱環境にも配慮すると,トイレを従来のように北側にではなく,南側に設けることがあります.冬場には温かく,日射が入るので殺菌効果が期待でき衛生的にも良いのです.トイレに空調をしたり暖房を置くこともおすすめします.それが難しい場合には,トイレの臭気を逃がすために排気をしますので,トイレの換気によって汚い空気を逃がすことにして,トイレと空調する保育室の間の仕切りをなくすか軽くする(壁の上部を開けるなど)と,保育空間とトイレの温度差が少なくなります.