51.アフォーダンスの演出

アフォーダンスとは、「もの」などの環境に内在する、動物にとっての行為の可能性と定義されます。人などの動物はそれがある「もの」であるから行為・行動を起こすのではなく、それがある行為・行動を可能にするものであるから、その行為に至るのだ、という考え方です。例えば切り株に人が腰掛けるのは、それがいすだからではなく,座るのにちょうど良い高さ・大きさだったからだ・・などと説明し、「(その)切り株(の形状や状態)が、人に、座ることをアフォードした」と表現します。
こどもたちは、このような、ものなどの環境と自分の行為・行動の関係についてより原理的です。例えば「○○ちゃん、テーブルには登らないよ」と、何人の保護者や、保育者が口にするでしょう? それは、テーブルがこどもにとって、登りたくなる、登れるだろうと判断できる形状をしているからです。テーブルの形状や状態は、こどもに、登ることをアフォードしているのです。逆に、テーブルの上に例えば食事が所狭しと並んでいたら、それでも登るこどもは少ないですね。そのとき、テーブルの状態は、こどもにとって登れない状態だと判断されている(テーブルの状態が、登ることをアフォードしていない)のです。

アフォーダンスの概念で環境を見てみると、こどもの身の回りにはたくさんのアフォーダンスがあること、またアフォーダンスの演出をすることで、こどもたちの挑戦心や冒険心をくすぐるながら、こどもたちが自ら、やりたいと思う気持ちを引き出すことができることに気づきます。このように、行為や行動を誘う仕掛けを周囲に配することで、こどもたちの自主性・主体性・意欲を育てることができます。またあるものと、自分の身体や身体能力がある行為・行動が可能かどうかの判断と結果を積み重ねることで、空間と自分の身体を適切に把握できる能力が育っていきます。また、段差を腰掛けやテーブルなどとして使っていくことは、一種の見立てとも言え、ものから遊びを発展させていく思考力や、豊かな感性の成長にもつながるでしょう。

明確な目的がある遊具ではなく、段差や面積などが提示されるだけの遊具や家具、オブジェなどはこどもにさまざまな行為や遊びをアフォードします。トップの写真は、複数の高さと面積の木の床が組み合わされたウッドデッキで遊ぶこどもたちです。段差を登る、飛び降りるなどの行為がアフォードされています。また、そうした行為そのものがこどもたちにとって挑戦したり、身体を動かしたりする遊びになっています。こうした、誘われた行為や動作の中で、例えば「ヒーローごっこ」や「鬼ごっこ」のような、物語を含む演じる遊びや関わり遊びが生まれることもしばしばあります。誘発される行為や動作が物語のきっかけとなっていくのです。

窓があれば覗いてみたくなる、ちょうど良いと判断できる大きさの穴や空間があれば入ってみたくなる、なにかものがあれば周囲を廻ってみたくなる、といった、つい誘われる行動も、アフォーダンスの結果とも言えます。写真も、特に目的を付与されたわけではないシンプルな木の小屋ですが、こどもたちの様々な行為を誘発しています。