50.「基地」空間

*園のご要望により、加工しない写真を掲載しています。

こどもたちは、乳児期から探索行動の拠点として心理的な「安全基地」を必要とすることが知られています。安全基地は、しばしば母親や保育者を指して言われ、見守ってくれている人、何かあればいつでも助けてくれる人、不安を感じればその人のところへ戻れるという確信が、積極的な探索を誘うとされています。
母親や保育者といった人だけでなく、物理的な「基地」や「拠点」となる空間や場所も、こどもたちの心理的な安全基地となります。「ここは自分の場所」だと思える場所では、こどもたちは保育者や保護者が一緒にいなくとも、集中して、そして安心して遊び込むことができます。
つまりこうした場所や空間があることで、こどもたちの主体的な活動や、自主的に動こう、遊ぼうという意欲の成長をサポートすることができると言えます。それは、自律と自立の精神の成長や、情緒の安定にもつながります。また、自分や自分たちだけの場所を見つけると、そこに何らかの見立てや意味づけをしたり、場所や空間のカスタマイズやアレンジをしたりしようとする行動もしばしば見られます。例えば「基地」に玩具を持ち込んで遊ぶなどもその一つです。空間をパーソナライズするこうした行動のなかで、思考力も育ちます。

園庭に置かれた大きな断面の土管のなかに、こどもが二人入り込んでいます。彼らはいま、ここに虫のケージを持ち込んで、観察をしています。周囲からは意識的に切り離された自分たちだけの居場所です。ここは少なくとも今この瞬間は、彼らだけの「基地」で、「隠れ家」となっています。

*園のご要望により、加工しない写真を掲載しています。

滑り台の下が、こどもたちのままごとの場所として使われています。上部や、周囲を覆ったり囲んだりする要素があることで、その場所は安定的な・守られた雰囲気をもちます。また、こどもの身体感覚からみて、大人は入れない、こどもだけの場所という雰囲気があると、より自分たちだけの基地だという愛着の感覚をもちやすい場所となります。

他の場所から視覚的、心理的に切り離された、隠れられる場所だけではなく、周囲を「見回し」たり「見下ろせ」たりする場所も、基地として好まれやすいと言えます。相手からは自分が見えにくいけれど、自分からは相手が見えやすい場所、はこどもの好奇心や冒険心、優越感をくすぐります。また、元来、人間も動物ですので、身を隠せる場所とともにたくさんの情報が得られる場所を好む心理特性があります。こうした立体的な視野をもてる視点場は、[59.俯瞰する体験]をもてる基地と言えます。

作り込まれた保育室でなくとも、こどもたちは部屋の隅やロッカーの陰などに「基地」を見つけようとします。写真では、こどもたちが保育者の机の下にぎゅうぎゅうに入り込んで、保育者とのやりとりを楽しんでいます。作り込まれた保育室でなくともこうした行動はしばしば見られますが、このような心理や行動と、環境がより対応していれば、それはこどもたちにとってどれほど「良い」環境でしょうか。

プレイホールで、こどもたちが発泡プラスチックのブロックや、木のブロックを使って、ごっこ遊びをしています。このような、こどもたちが簡単に動かせるブロックなども、こどもたちの「基地」づくりを助けます。こどもたちが自分たちで空間をアレンジしやすいことで、自分たちの拠点を積極的につくろうという気持ちになれます。それが可能だと認識することは、自主性とともに、こどもたちの自信も育てるでしょう。

ここでは収納スペースの下部が、20センチほど床が下がった、デン空間となっています。ここにままごとのセットが設えられており、デンスペースの外には、ままごとの道具が置かれた棚や、着替え遊びに使うさまざまな衣類が入ったたんすが置かれています。デン空間と、その前の、棚に囲まれた空間が一体的に使われるままごと・ごっこ遊びのゾーンとなっています。この場所はこどもたちがこどもたちだけで長時間遊ぶ、お気に入りの場所となっていますし、さらにこの場所を拠点にして「お買い物ごっこ」など、発展的な物語に沿った遊びが広い範囲に展開していきます。まさに、安定的な遊びの拠点があることで、探索的に遊びが拡がっていくことをサポートしている環境づくりと言えるでしょう。