59.俯瞰する体験

*園のご要望により、加工しない写真を掲載しています。

俯瞰する(見下ろす)体験は,空間を認識する能力の発達につながります。地上レベルで見えているものや風景と,それらを上から見下ろしたときに感じられる互いの位置関係や,それぞれの場所の大きさなどはずいぶん感覚が違うものです。そのような体験は,空間を立体視することができるようになると同時に([58.立体的な空間の体験]も参照してください),ものごとには相対的な関係があること,それらを第三の視点から眺めることができることを身体感覚として理解することにつながっていきます。地上レベルの視点が相対的な位置関係,それらを俯瞰する視点が第三の視点(ものごとを客観的に外側から眺める視点)です。この感覚は,たとえばスケジュール感覚(フィニッシュに向かって,いつまでに,なにを,どのようなペースで進めればよいか)や,論理的にものごとを説明する能力(Aで,Bで,CだからDであるといったロジックを組み立てる能力),地図や図面を読み,書くことができる能力(広さや距離を俯瞰的に捉えられる能力),などにつながっていきます。

60.安全と危険の感覚]で紹介している,ツリーハウスの上から園庭を見下ろした風景の写真です。こどもたちが大きくなって,このツリーハウスに登れるようになったとき,地上レベルから見上げる風景と,俯瞰する(見下ろす)風景との違いにまず驚くでしょう。そして,そのような新しい視点場を手に入れたことに優越感や,自信を抱くとともに,自己の成長を実感するでしょう。

*園のご要望により、加工しない写真を掲載しています。

同じツリーハウスから,自転車やバギーが走る「サーキット」と呼ばれるエリアを中心に見下ろしている角度の写真です。地上レベルで感じるものや空間の大きさと,上から見下ろすものや空間の大きさは,ずいぶん異なります。このような経験が客体視の体得につながっていきます。

(あけぼの幼稚園)

保育室につながる2階のベランダから,園庭を見下ろしているこどもたちの写真です。ベランダが居心地の良い仕上げになっており,こどもたちの居場所になっています。また手すり子が細く,手すりに透明感があるため,空間が広々と一体的に感じられます。このような空間から,いつでも園庭を見下ろせていることで,立体視や客体視の能力が育まれていくことでしょう。身体性には乏しいのですが,俯瞰する構図の画やマップなどを身近に見ることも,第三の視点の獲得につながります。

こちらの園では,毎年変わっていく園庭をイラストにして,文集や園内の掲示などに使っています。情報を強調したり,省略したりして描かれていますが,遊具の相対的な位置関係を俯瞰する構図で捉えられ,地上レベルにいてはわかりにくい園庭の全体像を理解することができます。

簡略的な表現ですが,一年の間に出かけた先を写真などで紹介して,お散歩マップをつくっている園です。こうした形での情報の整理と提示も,地域という拡がりを上空から眺める視点の獲得につながります。お散歩の間には,目線のレベルでのシークエンス(連続する空間の体験)としての風景しか感じられませんが,地図のかたちでそれらが整理されることで,連続する風景を場所として切り取って,その位置関係を把握するという思考のあり方を経験することができます。