56.集中して遊ぶ/課題に取り組む空間

こどもたちが遊びに集中できることは、こどもがその活動をしたいという主体性や意欲をもて,それを持続することができていると言い換えることができます。自立的に遊んでいる友言えるでしょう。そのような観点から,遊びへの集中力を環境がサポートできる部分は少なからずあります。遊びに集中できること,遊びが持続発展していくことで,思考力や想像力を存分に深めることができますし,絵本を読むことなどが対象となれば,物語の世界に没頭できることで豊かな言葉や想像力にもつながるでしょう。もちろん,集中して遊び込めることは情緒の安定という側面もあり,自分や自分たちの世界観を深めていくプロセスのなかで,感性や心情などの心的世界の深化の効果も期待されます。

自分だけの世界にも入りやすい環境づくりとしては,まずは座る「向き」の設定があげられます。みんなとの物理的距離というよりも心理的な距離を,身体の向き,視線の向きで調整します。
トップの写真は,「みんな」の様子を振り返って容易に見ることができる場所に,壁に向いて座る机と椅子が設置されており,集中したいときにはその場所に座って,読書や制作ができるという場所を作っている例です。場面中央のこどもは,自分が気に入っている本を1人で眺める位置に座を占めつつ,周囲の様子も眺めています。この場所では,振り返れば「みんな」がいる,様子がわかる,という安心感のなかで,自分の世界に入ることができます。

こちらの園では,保育室の中に,視覚的にもかなり仕切られたままごと遊びのゾーンをつくっています。立体の遊具を入れていて,入口部分が二段になっています。

ゾーンの入口部分の,下部から奥を眺めた様子です。奥は,上部がなく室の天井がそのまま見え(建築的に言えば,「吹き抜け」になっています),窓に面した明るい空間です。入口部分の,二段になっているところから通り抜けていくと,空間的には幅や高さが「くびれ」ている,ゲート状の空間を通っていくことになります。このプロセスが,保育室の空間(ゾーンの外)とゾーンの内部の違いを明確に意識づけ,遊びへの集中力を高めます。天井高が低い手前のスペースも,こどもたちの心理的な落ち着きを誘います。

作り込まれた場所だけではなく,ちょっとした隙間の空間も,こどもたちにとって集中して遊び込める場所になり得ます。写真は,園庭の段差と,建物の間の隙間で,ままごと道具の置き場所になっていた場所を,こどもたちが自分たちの場所として「発見」し,毎日長時間遊び込んでいる彼ら・彼女らだけの場所の様子です。ちょうど,こどもたちの身体寸法にあった「隙間」や,「段差」が,集中して遊べる環境の要素となっています。