52.遊びの可視化
[51.アフォーダンスの演出]では、身体的な行為や行動、動作の誘発について説明しています。さらにここでは、「思わず〜したくなる」という環境による誘発を、心理的な面について説明します。
目に見えているもの、聞こえるもの、香りなども含めて環境からの情報は、行為・行動や興味関心を刺激します。例えばおもちゃがしまわれていると、そのおもちゃで遊びたい、という気持ちは、今までの記憶のなかにあるそのおもちゃの存在や経験に基づいてのみ発現します。しかし、そのおもちゃが目に見える、手に届く場所に置かれている場合には、そのおもちゃで遊んだことのないこどもでも、あるいは今までそのおもちゃのことを思い出しもしなかったこどもでも、それで遊びたい、さわりたい、という気持ちをもちます。このように,遊びが見えていることでこどもたちの意欲や,主体性が育ちます。
また,自分で遊びを見いだし,展開していくことで,思考力や豊かな感性、豊かな心情が育まれていくことでしょう。
小さい部屋全体が,ままごとやごっこ遊びのスペースとしてつくられています。部屋と遊びの内容が対応しており,遊びに集中できる環境となっています。また,お世話遊びと着替え遊び,ままごと遊びなどの関連する遊びがひとつの部屋にゾーニングされていることで,遊びの発展が支援されています。
遊びの可視化は,囲われた感じとイコールではありません。ここでは,テーブルに平仮名の表が置かれ,はがきの見本と,ペンが一緒に置かれています。席について,表を見ながらお手紙書き(ごっこ)をするゾーンとしてつくられています。もちろん,お手紙を書くという遊びを通して,文字や言葉の練習をしているのですが,こどもたちにとってはあくまでも楽しい遊びのゾーンです。
遊びの可視化が、遊びを誘うことに有効であるように、遊びを「見えなくする」ことは、気持ちが散じてしまうことを防ぎます。
(ののはな教室)
こちらは、自閉症児を中心とした障がい児の通所施設の写真です。自由に遊ぶ時間には、色とりどりのおもちゃが見えるように環境が設定され、こどもたちの興味関心や遊びを誘います。
(ののはな教室)
しかし、集団指導などの、指導者や保護者との活動に集中してほしいときには、本棚を反転させて本が見えないようにする、遊具の常置スペースとの間のボックスカーテンを引いて遊具が見えないようにする、などの配慮をしています。
この刺激のコントロールによって、場面の切り替えを環境を通じて視覚的にも伝えることができ、こどもたちが時間ごとの活動にスムーズに入れるようになります。
こうした工夫は例えば工作遊びのゾーンなど,こどもだけで使うには危険もある道具が置かれたゾーンなどで,そのゾーンを使わないときには棚にカーテンを引き,自由に使って良い時間帯だけ棚をオープンにしておくなどの活用方法も考えられます。見える棚に鍵を掛けておいたり,いつも見えない棚にしまっておいたりするよりもずっと,こどもたち自身に,いま何が許されていて何をしてはいけないかを考えさせるとともに,こどもたちにとってその判断や自己制御の訓練になります。