40.保育単位の連携と柔軟性
「遊ぶ」集団をどのように設定するかは,こどもたちどうしの関係や,遊びの内容にも影響します.年齢ごとに保育単位(クラス)をつくって,そのクラスごとに遊びや遊び場所を組み立てる園が多いですが,異年齢合同クラスや縦割りクラスによる育ち合い(12参照)を重視する例もあります.このように保育単位そのものを多様な属性の集団とすることや,設定した保育単位どうしが連携して遊びや遊びの場を組み立てること,または保育単位が柔軟であることは,こどもたちの創造力や自発的な遊びを誘発し,豊かな感性を育みます.また交流の拡がりのなかで協調性や思いやり,上の年齢のこどもとの遊びのなかで運動能力を身につける契機となります.
■ 保育室の連携
「クラス」ごとに,「保育室」を設ける事例は多く見られます.廊下に面して保育室が並び,保育室どうしに直接行き来する動線がなく,活動の単位である「クラス」と活動の場である「保育室」とが一致していると,こどもたちにとって安定的な活動の場が保障されるメリットがあります.しかし,年間を通して一致し続ける必要は必ずしもありません.
この図は,短/長時間児,短/長期間児*が混在するこども園の4歳クラスで,季節によって保育室での活動の様子の変化を示しています.この例では,年度当初はクラスという安定した単位で,保育室で固定的に活動を行うことでこどもたちどうしの「なじみ」や就園したばかりのこどもの園生活への「なじみ」を促します.そしてこどもたちがお互いと園生活に充分なじんだ秋には,4歳児2クラスの保育室の間の扉を開放し,自由遊び時間には2つのクラスのこどもたちが互いに自由に行き来して遊び仲間を拡大したり,2つの保育室のなかで自分の遊びや遊び場を発見・選択したりできるようになります.こどもたちが自分たちが帰属する集団を認識した上で,さらに世界の拡がりを体験できるよう,保育のあり方が考えられている例といえます.
建築的には,2つの保育室間に扉が設置されていることがこうした連携のあり方を支えているといえます.
複数の保育室の境界が可動間仕切りとなっている例はしばしば見られ,このように保育設定と連携して活用されると利点を発揮できます.また廊下等接続空間に対して開放的な保育室であっても,廊下等を介して複数の保育室・保育集団が連携しやすいといえます.
■ ホール等での活動単位の連携
保育室を一体的・連続的に使うだけではなく,ホールや遊戯室を活用して保育単位の連携を図ることもできます.この園では,遊戯室と遊戯室前のホールを活用することで,学年合同での保育を日常的に行っています.これによって,保育単位(クラス)を超えた遊び仲間の形成や遊び内容の発展が起こっています.
また2クラス分の保育スペースを,保育室2室ではなく小空間+大空間として確保することで,保育単位ごとの活動拠点をとりつつ,保育単位が連携した活動や動的活動や遊具・玩具を用いた大面積での活動などがしやすくなります.
■ 保育単位の柔軟性
複数の学年クラスや異年齢クラスなど複数の保育単位合同での保育実施などの保育単位の柔軟性は,こどもたちにより大集団のなかでの遊び相手の選択を保障しますし,多様な遊び場面につながります.また保育単位も年度で固定されている必要は必ずしもありません.例えば北欧では「年度」ではなくこども1人ひとりの「年齢」や発達を基準にしてこどもがどのクラスで過ごすかを決めており,低/高年齢児2クラスの設定であれば,3歳の誕生日に前後して本人と家族と相談した上で低年齢児クラスから高年齢児クラスに移ります.
*短時間児:従来の幼稚園児のように,9~14時等短時間在園するこども.長時間児:従来の保育園児のように,7時半~19時等長時間在園するこども.短期間児:従来の幼稚園児のように,3~5歳で就園するこども.長期間児:従来の保育園児のように,0~2歳で就園するこども.