19.自然に親しむ
*この写真は許可を得て、加工しない写真を掲載しています。
自然のなかには,「不思議」や「あこがれ」「恐怖」「美しさ」などのこどもや大人の心を動かす要素がたくさんあります。自然に親しむことで,自然と生命への畏怖と愛情が育ちます。また,感動や情動,不思議の体験を通して創造性や思考力,豊かな感性も育まれるでしょう。
写真は,タンポポの綿毛を不思議そうに見つめるこどもです。レイチェル・カーソンは著書『センス・オブ・ワンダー(神秘さや不思議さに目を見はる感性)』のなかで“・・生まれつきそなわっている子どもの「センス・オブ・ワンダー」をいつも新鮮にたもちつづけるためには,わたしたちが住んでいる世界のよろこび,感激,神秘などを子どもと一緒に再発見し,感動を分かち合ってくれる大人が,すくなくともひとり,そばにいる必要があります。”と書いています(*)。
こどもの興味や好奇心が動いているときに,あるいは動くように,保育者や保護者が一緒に楽しみながら,さまざまな知識を伝えたり,物語の語りかけをしたいものです。タンポポの綿毛がなぜあるのかや,タンポポの花の茎は花が咲いているうちは低く,綿毛をつける頃にすっくと伸びることなどは大人が考えても,面白いことではないでしょうか(**)。
しかし,レイチェル・カーソンは先述のくだりに続けて,こうも書いています。“もし,あなた自身は自然への知識をほんのすこししかもっていないと感じていたとしても,おやとして,たくさんのことを子どもにしてやることができます”。“「知る」ことは「感じる」ことの半分も重要ではない”,そして“美しいものを美しいと感じる感覚,新しいものや未知なものにふれたときの感激,思いやり,憐れみ,賞賛や愛情などのさまざまな形の感情”がしっかりとした知識に結びついていくのだ,と。知識よりも,こどもと一緒に「感じる」ことができることのほうが,ずっと大切だと彼女は言っています(*)。自然の中には,そのように感性を開かせる要素がたくさんあります。
*園のご要望により、加工しない写真を掲載しています。
写真は,園庭から保育室に登る階段の横に,こどもが1人ひとり育てているチューリップが置かれている様子です。日常的に目にしないかもしれない「花壇」に置くのではなく,毎日何度も上り下りする動線に置かれていることで,自然と成長や変化の様子が目に入ります。自然への親しみを覚えやすい仕掛けといえます。
園庭や動線空間に充分な空間がない場合でも,ベランダや屋上を活用するなどの方法で,保育場所やご自宅で自然に親しむ環境をつくることもできます。写真は,保育室から出られるベランダで野菜をプランター栽培している園の様子です。
園庭に林や森のような空間がある,近隣に自由に散策できる林があるなど,日常的に自然に触れる機会のある環境はもちろんすばらしいでしょう。そこには探検ごっこや,草や木の実などを集めてそれらでままごとをしたりなど,こどもの遊びを誘発する要素がたくさんあるでしょう。
採取した自然の一部,例えば小枝や草,葉,木の実や貝殻などを使って遊んだり,作品をつくったりすることも,こどもたちが自然に親しみ,自然への畏怖や愛情をもつことを助けます。
海への遠足保育の際に,思い出と作品づくりの素材として集められた貝殻が,保育材料の保管場所兼スタッフの打ち合わせ場所に置かれています。こうした素材をこどもや保育者の目に入る場所に置いてあることも,創作意欲や自然の美しさへの気づきを誘うでしょう。
こどもたちが公園で拾った松ぼっくりや小枝,どんぐりなどを使ってつくった作品を展示しているところです。
* レイチェル・カーソン(上遠恵子訳)『センス・オブ・ ワンダー』,新潮社版,1996.07(46刷2006.09)
** 余談ですが,筆者は「ドラえもん」の単行本18巻の巻末の一話「タンポポ空を行く」が大好きです。さまざまな物語を自分のなかに持つことで,なにかを見たときに思い出すことがらがネットワークのように拡がります。物語は,世界を見る目を豊かにします。