図1
❖「なぜ」に答えられる環境づくり
意識的につくられた環境では,「なぜこれはこうなのか」を問われたとき,その理由を答えることができます.理由が明確であれば,具体的な環境づ くりを考えるとき,よりよいあり方やほかの方法を考えることができます.
図1はこれを説明する例です.「美しい絵を飾る」環境づくりをしている園は多いと思いますが,それは,なんのためでしょうか.他にどのような方法があ るでしょうか.
美しい絵を保育室に掛けることによって,部屋の雰囲気を和らげることができ (①),こどもの感性を日常生活のなかで育てることができます (②).雰囲気 をやわらげたい理由は,こどもが安心や落ち着きを感じられるためであり (③),感性の成長はこどもの心の成長の一端です(④).逆にたどってみると,こどもが安心や落ち着きを感じられることを重視すればその絵は穏やかで落ち着いた色彩やテーマの絵が良いでしょうし(⑤),感性を刺激するためには穏やかな絵ばかりではなく「おっ」と目を引くような色彩やテーマ,タッチ,素材 の絵画も良いでしょう(⑥).いろいろな絵が 同じ場所にあって目に入ることは 落ち着きにつながらないかもしれない.では保育室のなかでも,読書のスペース には落ち着いた雰囲気をつくりたいので穏やかな絵を,暖かみのある木を使った額に納めて,こどもの目線に飾ろう.アトリエスペースでは想像力の飛躍を期待したいので刺激的な絵を,原色の台紙に貼り,ちょっと高いところや,逆に低い場所に飾ってみよう.そのように環境づくりのもっといいあり方を深く考えたり,発想を拡げること ができます.
繰り返しになりますが,環境のあり方に唯一の答えはありません.「正しく」 考えることではなく,環境をどのようにつくるか,それはなんのためかを考えること自体がとても大切だと思います.これでいいやという環境のつくり方は, 少し乱暴な言い方をすると思考の放棄もとれるかもしれません. それに対し て,隅々まで心が行き届いた環境は,その環境で過ごす人に,「あなたたちのことを大切に思っています」と伝えてくれます.
❖変わり続けること,つくり続けること
環境づくりの理由を答えられるということはまた,こどもの成長発達や社会のニーズなどに応じた環境づくりの理念と環境のあり方が結びついている という ことです.こども施設の枠組みは時代とともに変わります.社会の変化とともに,対象とするこども像や,ご家庭の状況なども変わるでしょう。
目の前のこどもたちを見ていても,こどもたちのすがたや興味関心は,日ごと 季節ごとに変わっていきます。年度によって保育集団の性格も違うものです。 保育のねらいも週ごと,月ごとなど移り変わるこどもたちのすがたや季節に合わせてつくられます。こうした変化を常態としていま現在の環境のあり方を改めて問い直すこと.常にいまこれでよいのかと問い続け,その時々にベストだと思う環境をベストだと思うやり方でつくり続けることが大切なのではないで しょうか。
環境づくりに積極的に取り組まれている園では,訪れる度に,お部屋やお庭のあちらこちらが,前回と違う,ということがしばしばあります。環境づ くりの理念とあり方を結ぶネットワークとしての考え方ができていれば,環境づくりの背景が変わったときにも,理念を変えることなくそれまでの積み重ねを積極的に活かしながら,適切な環境を提供し続けることができます.草木の根っこが しっかりと張っていれば,きつめに剪定をしても元気に枝が伸び葉が開き花が咲くのと,同じです。あり続けるものはこどもたちの気持ちや活動に連続性と安定感をもたらし,変わっていくものは発達や興味関心への刺激,楽しみとなり こどもたちの心をくすぐるでしょう。
❖障がいや発達の遅れ・偏りのあるこどものための環境づくり
保育園や幼稚園などで取り組まれている,こどもの成長・発達のための環境づくりは障がいの有無に関わらず重要です。さらに、一人ひとり発達特性が異なるこどもの成長・発達のための環境づくりの際には,まず「個別ケア」と「刺激の(量と質の)コントロール」,与えられる情報と求められる行動・行為を整理して提示する「構造化」が、障がい特性を踏まえてこどもたちそれぞれの支援につなげていく土台となります。
このリゾーム構造では療育が必要なこどもへの環境づくりの取り組みを紹介していますが,まず「個別ケア」,「刺激のコントロール」,「構造化」の考え方や具体的取り組み例のページをお読みください。そして,この3つの考え方をベースとして、そのうえで「こどもの成長・発達」のための環境づくりのそれぞれの取り組みをご覧いただくいただくことを想定して、このサイトの情報を組み立てています。
例えば,上記『「なぜ」に答える環境づくり』で「美しい絵を飾る」の環境づくりの説明をしていますが,こうした記事をご覧になる際に,『「個別ケア」の観点から考えると,“このたった1人のこどものために”どんな環境づくりの仕方があるだろうか?』といったように,個別ケアとしての「美しい絵を飾る」方法を考えたり,発想を拡げるきっかけとしていただけば幸いです。