就学や,その先の社会参画へのつながりに鑑みても、集団での活動ができ、それを楽しめることは大切なことです。一方で、それぞれが独立した個であり、それぞれの考えをもっていることを理解し、それを尊重できることも、安定した自我の形成に向けた大きな課題となります。自我の独立性と個別性を自覚することで、自主性や自律と自立の精神が育まれるとともに、豊かな心情や情緒の安定につながるでしょう。またなにより、自分と同様に他者にも固有の自我があることを解し、他者を大切にする心や協調性につながっていくでしょう。
 集団の中で、個が尊重されるためには、まずは一人、あるいはごく少人数でいられることが大切です。一人でいられる場所があること、一人でいるようにデザインされた場所があることは、一人という活動単位を自然に促し、またそれが他者の目から見ても自然に写ります。「一人でいること」は、時には当然のことなのだ、としてこどもや保育者が受け入れられる環境設定は、個別の活動や滞在、個が尊重される土壌づくりをサポートします。

保育室でみんなが着替えをしている時間帯に、保育室の外のテラスで、ごろごろと一人遊びをしている場面です。この時期、この子は集団遊びも楽しみますが、基本的には「一人でいたい」時間が長いこどもでした。保育室やクラスという集団単位から離れて、一人でいられること、一人でいられる場所があることは、このときのこの子にとってとても大切なことでした。なお、1年後に再訪した際には、この子はより集団遊びを好むようになっていました。ときに、一人でいることを社会性の欠如の兆候と見なして、無理にでも集団に入れることが大切だと考える保育者や保護者もありますし、そうした面も一方ではあるかと思います。しかし、自我の形成のプロセスに多様性を認める考え方も大切ではないでしょうか。


(あけぼの幼稚園)

[②気持ちの切り替え空間]や[③小さな居場所]なども参照してください。集団とつかず離れずの距離で、こどもが一人やごく少人数の集団でもいられる環境づくりは、こどもたちの発達や心のあり様、あるいはその時々の気持ちの状態の多様性をそのまま認め、受け止める土壌となります。


*園のご要望により、加工しない写真を掲載しています。

この園では毎年、それぞれのクラスで発達に合わせてひとりひとつずつ,鯉のぼりをつくる活動をしています。こうした活動は一例ですが、制作のときには,みんなでいっせいにつくるのではなく,自由遊びの時間に,数人のこどもが保育室で制作に取り組むようなやり方をしています。写真の場面では、できあがった鯉のぼりを揚げるためにロープに鯉のぼりを取り付けているのですが、これも「まとめて」ではなく,1人ずつです。1人の鯉のぼりができあがると,こどもたちが制作場所である保育室から駆けだしてきて、近くにいる保育者に声をかけます。そのたびに保育者はロープを下ろして,できあがった鯉のぼりをつけてまた揚げます。一人ずつの掲揚式のたびに,できあがった鯉のぼりを見に,周辺のこどもたちが集まってきます。それは1人ひとりにとって,どれほど嬉しく,誇らしい瞬間でしょう。
このように、物理的な環境のみならず、例えば作品の制作プロセスやその展示・発表といったソフトの環境においても、個を尊重する保育が多くの園で取り組まれています。

情緒の安定
1.登園時の期待感
2.気持ちの切り替え空間
3.小さな居場所
4.くつろいだ雰囲気
5.延長保育スペースでの配慮
豊かな感性
6.「触」覚のある環境
7.遊びのなかの触覚
8.全身で感じる遊び
9.においの体験
10.風と気づき
11.光の体験
12.日常的に美に触れる
豊かな心情
13.「演じ」て理解する
14.表現する−音楽
15.表現する−絵画,造形
自然と生命への
畏敬と愛情
 
19.自然に親しむ
20.季節を感じ,楽しむ
21.命を感じ,親しむ
 
創造性の芽生え
13.「演じ」て理解する
14.表現する−音楽
15.表現する−絵画,造形
16.物語が編み込まれた環境
17.遊び込める仕掛け
18.見立てを誘う環境
豊かな言葉
35.文字や数字がある環境
36.知識や物語の泉に触れる
37.読み聞かせの演出
38.ショウ&テルの機会
思考力
30.伝統文化を遊ぶ
31.自国の文化を知り,親しむ
32.多様性を体感する
33.電子メディアとの適切な距離感
34.「不思議」,科学の目の芽生え
自主性・主体性・意欲
50.「基地」空間
51.アフォーダンスの演出
52.遊びの可視化
53.遊びの保存
54.片付けのための工夫
55.遊びの場の保障
56.集中して遊べる空間
自立と自律
22.時間の可視化
23.日課の可視化
24.音で場面や行為を知る
25.流れをデザインする
26.「自分で」を支える
27.着脱の自立への配慮
28.排泄の自立への配慮
29.身近な手洗い場
 
関わる
喜んで話したり
聞いたりする態度
 
38.ショウ&テルの機会
39.仲間の共有
40.保育単位の連携と柔軟性
41.交流の拡がりを誘う空間
42.育ち合いの仕組み
人に対する愛情と信頼感
42.育ち合いの仕組み
46.命の祝福
47.自己の成長の確認
48.生活の振り返りの機会
49.作品の展示
他者大切にする心
協調性
 
43.協働の達成感と喜び
44.集団活動の機会
45.集団のなかでの個の尊重
 
空間把握と身体の把握
57.拡がりのある空間の体験
58.立体的な空間の体験
59.俯瞰する体験
60.安全と危険の感覚
しなやかで健康な身体
61.日常的に身体を動かせる
乳児の環境
62.全身を使って遊べる幼児の環境
63.午睡や休憩での配慮
食への興味と関心
64.調理との関わり
65.食べ物を知る
66.食べ物を育てる体験
 
家庭地域との連携
67.地域の文化と伝統に親しむ
68.地域との関係をつくる
69.保育の時間の共有
70.保護者とつくる環境
71.保護者の活動支援
72.保護者同士の関係をつくる